都合の良いファンタジーというか、本を巡る状況と考え方を作者なりに考えて、読者向けに物語にしたという感じでしょうか。
本を巡る状況が厳しいというのは、書店の激減を見ればわかります。
Amazonが日本で書籍の販売を始めた頃を知っていますが、当時、日本の出版業界はネット通販には非協力的でした。日本には再販制度というのがあって、書店は一定数の返本が認められる代わりに注文をしない新刊本の配本を受け入れる仕組みがあり、そのために取次店という問屋さんのような会社を通して本を仕入れることが多かったのですが、Amazonは次第に買い切り(返本しない)することで取次システムを通さず出版社からの直接仕入れを増やしていきます。
再販システムを通さなければ、本は注文されない限りは市場に出ないという事になりますし、そもそもネット通販では本を手に取ることはありません。
Amazonに倣って書籍の通販を始める会社も増え、結果的に町の書店の経営が立ち行かなくなり書店が減少。書店が消滅した地域ではユーザーが本を気軽に手に取って選ぶ機会を奪われてしまいました。
本というものは、書かれているもののほかに装丁や解説、あとがきなどが一体のものとして評価されるもだと思いますが、実施に手に取れなければ作品単体でしか選べません。
選択の機会が奪われるという事は、自由な読書の機会を奪われるという事。他人のおすすめや話題作しか目につかない事態になっています。
その結果生まれた弊害を4つの迷宮に例え、古書店主だった祖父に育てられた引きこもりの少年が言葉を話す猫に導かれ、同級生の少女を巻き込んで自分なりの答えを出して解決していく…
自分は、小説というより出版業の現状を再認識させられる物語として読みました。