端的に言って登場人物は52ヘルツのクジラたちではありません。
作中でも触れられていますが52ヘルツのクジラは太平洋に生息するただ1頭のクジラで、他のクジラとは違う周波数で鳴くためにコミュニケーションが取れない孤独なクジラ。
登場人物たちは外的・内的要因でコミュニケーション不全に追いやられているわけで、作者は単にコミュニケーションが取れないことのメタファーとして52ヘルツのクジラを出しているのでしょう。
だからタイトルから想像される本格的な孤独の話ではなく、人と触れ合い社会性を獲得していこうとするお話です。
敢えてこの物語を読んで52ヘルツのクジラと言えるとしたらアンさんなんだろうなと思います。その声に癒され、励まされ、群れに戻る。その者は群れから離れた仲間を見つけて群れに迎える…そんなイメージでしょうか。映画化されていますが、語り手の貴瑚目線で描いたらありふれた物語になりそう。そんな感じがします。
実際の52ヘルツのクジラは成体にまで成長し生き続けているのですから、孤独と名前を付けなければ生きることに支障はないのかもしれません。
人は、いろんなものに名前を付けて比べたり、自分を持てずに疎外されたりして悩みますが、ただ一人であれば悩むことはない。自分というものをちゃんと持って周りと向き合っていくことが大切なのだろうなと思います。
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