2023年5月4日木曜日

【ゴリラ裁判の日】須藤古都離 2023年第1刷発行 講談社


第64回メフィスト賞受賞作品です。メフィスト賞の応募要項には「京極夏彦さんが先鞭をつけ、森博嗣さん、清涼院流水さん、西尾維新さん、辻村深月さんなどミステリー、エンターテインメントの異才を送り出してきたのがメフィスト賞です。」とありますが、言葉を話すゴリラが主人公というような設定の作品はなかったと思います。

 言葉を話すゴリラと書きましたが、この作品は人間の定義について考えさせられる物語でした。そして、言葉を話さないゴリラの生活が描かれることで、「言葉を持つことは本当に幸せなのか」と言葉で考えてしまうというメタな感想を持ちました。

“人の定義とは”は言葉を変えれば“人権とは”となり、現代では人権を持っていても、過去には人権が認められなかった(今は差別と言いますが、当時は差別ではなく本当に人と思っていなかったのでしょう)歴史がある人類(ホモサピエンス)にとって、人の定義は時代によって変化してきたと言えます。今の価値観は永続するものではないという事ですね。

 主人公はカメルーンの保護区で生まれ育ったローランドゴリラのローズ。

ローズは保護区でゴリラの観察・研究をしているアメリカ人から手話を習い、手話を音声化できるグローブをつけて会話する力を持ちます。

本人(本ゴリラ?)の希望と政治家の思惑と共にアメリカへ渡ったローズは、ゴリラ園のリーダー(ローズのように言葉を話さない普通のゴリラ)と夫婦となりますが、ローズの夫ゴリラが作から落ちてきた人間の子供を引きずり回してしまい、射殺されます。

動物園はやむを得ない行動であったと何の罪にも問われませんが、殺意のない夫を、子供を助けるために殺された彼女は動物園を訴えます。

 この裁判のモチーフはアメリカのシンシナティ動物園で2016年に実際に起きた「ハランベ事件」。動物園の囲いの中に落ちた子供を引きずり回したゴリラが射殺され、是非を巡って論争が起きたという事です。

そこから言葉を話す知能優秀なゴリラがいたらどうかという発想が生まれたのかもしれません。

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