先日、読書会で坂口安吾の「桜の森満開の下」を取り上げた際に、「夜長姫と耳男」とよく似ていてどちらがどちらかわからなくなったという方がいました。
確かに、男が美しい女に振り回されて、最後に殺してしまうという点では同じですが、言わんとするところはまるで違うように思います。
「桜の森満開の下」の男は、人殺しもなんとも思わない盗賊で、美しい女を都から攫ってくるまでは、今のことだけを考えて暮らしています。
しかし、女との暮らしを続けるために都に移り住み、女の言うとおりのことをします。それは、女と暮らしていきたいという将来を考えての行為です。
その女は、自らの妬みや欲望で男を動かしていて、男に頼り切っています。
都の暮らしになじめない男は、元の土地へ帰ることを女に告げ、女はそれを受け入れて一緒に帰りますが、その途中、桜の花が満開の木の下で男は自分が背負った女が鬼の姿に変わっていることに気づいて殺してしまいます。
男は、おそらく殺してしまった女のことを考えて暮らすことになるのでしょう。
或いは過去を悔いて盗賊を止め、出家してしまったかもしれません。
「夜長姫と耳男」の耳男は若いけれどヒダの匠で、夜長姫の持仏を彫る他の二人の匠と競うために長者の館へ招かれます。
夜長姫はとても美しく、また残酷で奇怪な感覚を持つ姫で、3人の匠の中から耳男を選びます。
耳男は雇い主である美しい姫の希望に沿って恐ろしいバケモノを彫りあげ、最後は姫を殺さなければ人間世界はもたないと、刺し殺します。
姫は、自らが刺されながら「好きなものは咒か殺すか争うかしなければならないものよ。お前のミロクがダメなのもそのせいだし、お前のバケモノが素晴らしいのもそのためなのよ…」と言います。
これは、姫の耳男への愛情表現なのかもしれませんし、耳男が極めようとする道の厳しさを諭しているようにも取れます。
おそらく、耳男の作風はこれを機に変わって行くのでしょう。
流された結末と選んだ結末の物語です。
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