台所で眠るのが好きな物語の語り手である大学生・桜井みかげ。
両親と祖父を早くに亡くし、祖母と暮らしてきた終にはその祖母さえも亡くしてしまい、天涯孤独の身となる。
そのみかげを自宅に住むように勧める祖母の行きつけの花屋でアルバイトをしていて、葬儀の際もてきぱきと手伝ってくれていた田辺雄一も、母を亡くして母親(実は父親)でゲイバーを経営する母・えり子(実は父・雄司)とマンションで2人暮らし。
この物語には死が身近にあります。
一方で、タイトルは「キッチン」。人は食べなければ生きていけませんから、まさに生の象徴。
そう。これは田辺家のキッチンにあるソファーで眠るみかげの喪失と再生のお話です。
家で暮らしていれば必ず利用するのは、台所とトイレでしょう。
そして、家族と一緒にいるのは台所。
みかげが台所で寝るのは、無意識に祖母を思っている行為なんだと思います。
ですから、物語の終盤に夢の中で祖母と一緒に暮らした家の台所を掃除する夢というのは、祖母の死を受け入れて前を向く準備が出来たという風にとらえることが出来ます。
同じ夢を雄一も見ているという事は、二人の深いつながりを示唆していて、物語には続きがあるんだろうなと。
今日では違和感がない文体ですが、当時普通に学校なんかで同じように書いていれば「こんな言い回しはおかしい」「表現がふざけている」と書き直しさせられていたでしょう。
そう言う意味でもエポックメーキングな作品かもしれません。
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