2022年5月14日土曜日

【20歳のソウル】中井由梨子 幻冬舎文庫 令和3年5月25日初版発行

 20歳で肺癌のため亡くなった方の人生を関係者の証言で描く実話ストーリーという事ですが、亡くなった後の取材ですからご本人の思いはわかりませんから実話をもとにしたフィクションという位置づけが正しいでしょう。

努力して才能を開花させ、夢を持ち、人に好かれ、恋愛も順調な19歳の若者が癌に侵されて亡くなる…これを読んで、痛ましい・悲しいだけではなく何を感じるのか。

癌患者のメンタルを支えるもの。

悔いを残さぬよう最期までそれを持たせることが出来る周囲の人々の気持ち。


お話の主な舞台となる市立船橋と言えば、いろんな部活動が盛んな有名校です。

日本の学校の部活の練習時間はそこそこ長いのですが、強豪校になれば、やっぱりプラスアルファな部分もある。強豪校・有名校には有名な顧問の先生がいますが、教師として授業、顧問として生徒指導の両立することになります。多分、プライベートな時間はホントに少なくて、生徒は濃密な3年間で終わりですが、教師はそれを続けている間、ずっと濃密な時間を作らなければならない。

亡くなった生徒が主人公ではありますが、指導していた先生の方も気になりますね。

何がこの人たちを動かしていたんだろうと考えると「これをやりたい」「こうなりたい」という明確な目標と意思なんだろうな。そして、それが実現できるのは、そこにたどり着く努力をしてきた人だからで、漫然と生きていたら、その世界に足を踏み入れた途端に「こんなはずじゃなかった」って逃げ出してしまいそう。

映画化されたという事ですが、教師の働き方や部活の在り方に問題提起がされている状況で、部活漬けの日常は外せないわけで、そういう事を肯定するのかというややこしい人が出てこないとは限らないし、好ましくない議論が起こる可能性がありますから、実際を描くとなると個人的には少しハードルがあるなと思います。

取材に応じた方々は、彼の生きたことを多くの人に知ってもらいたいという気持ちがあるでしょうし、その部分をいい加減に描いたら、ちょっと違うってなるでしょう。

人の感受性や創造性というのは、若いうちに育まれるものだし、それを磨いたり発揮するためのツールとして、同じ志向を持つ人が集まる場として部活動というのも有効な場所。

そこで高めあおうとすれば、部活漬けというのは決して悪いことではないと思うのですが、ネガティブな問題が出てきていて、見直そうという社会の流れがあります。

そこは本当にバランス感覚であったり、その場の環境がどうなのかという事で、一律に悪いということは出来ないのかなと思います。

部活について自分の経験から言えるのは、本人がやっていることを止めるのは納得できる理由が必要だし、結果についてちゃんと責任を取れる、失敗しても、やめたとしても問題にしない環境づくりが大切だろうなということでしょうか。

もちろん、この主人公のように、真っすぐ向き合ってやり遂げるというのが理想ではありますが。

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