ノルマンディ上陸作戦からベルリンの壁崩壊後まで。
ミステリー要素もあるけれど、それは仲間が親しくなるツール。あくまでも戦争の物語であり、主人公の成長の物語。
戦争ものは苦手という人にも読みやすく、ミステリーなんてと思う人にも「そういう事ね」と素直に読めそうです。
ぼんやりと、第二次世界大戦のヨーロッパ戦線はアメリカの参戦以降は形勢逆転で悠々と連合国側が勝ったイメージがあるけれど、双方の多くの人が命を落とした戦いであり、兵士も住民も悲惨な状況に置かれた様が描かれています。
主人公ティモシー(ティム)・コール(通称キッド)はアメリカのルイジアナ出身の二十歳前、徴兵されるようになるなら志願兵の方がボーナスの支給額が50万ドル多いと志願した、勉強が苦手な、祖母の作る料理が好きでそのレシピのノートを1冊持って従軍する青年。
彼が、後に親友となる味音痴の三等特技兵(コックのリーダー)エドに誘われて、五等特技兵(コック)となり転戦する中で他の同僚とも友情をはぐくみ、戦闘で同僚を失い、民間人と交流し…そうした中での出来事や謎解き。
特技兵と言っても戦闘に参加し、戦場で料理をする。戦場のコックを主人公に据えるという点は斬新ですし、キャラクターも魅力的に描かれています。
ここで描かれている謎は謎ではなく、誰かにとって必要な事。
謎解きを行うエドは、生い立ちから深く物事を考える習慣がついたと語りますが、それは本当に求めるものについて真剣に考えることが出来たからでしょう、戦場という日常でも注意力と合理性をもって。
そういう彼らに対して、中には軍隊しか居場所がないという人物も登場しますが、戦争がなければ彼らはどういう一生を送ったのでしょう。死者は当然未来を失っていますし、生き残った者は人生を大きく変えられています。
彼らが出会うこともなかった世界は日常が淡々と過ぎるだけなのかもしれませんが、その日常は愛おしいものなのだろうな…こういう物語を読むといつも感じてしまいますが、この物語のラストを読むと、その思いが一層強くなります。
(追伸)
キッドは生まれた国が危機にさらされているわけではない戦争に少しの疑問を持って従軍して戦いますが、今のウクライナを侵攻しているロシアに対する諸外国のスタンスは、世界大戦になりかねないから参戦しないというもの。経済制裁でロシアの侵攻を止めようと試みていますが、戦争の生む悲惨さは1分、1秒ごとに拡大されていることを考えるとやりきれない思いです。
核兵器や化学兵器だけではなく戦闘行為自体も犯罪として裁かれなければいけないと思いますが、軍需産業自体が巨大なビジネスとなっている世界、軍が実権を握提る国がある世界では不可能な事なのでしょう。
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