マルコ・ポーロの『東方見聞録』で存在を知ったヤシ酒。木から酒が採取されるという記述に、農学者である著者は、そんなことはないだろうと、1975年にスリランカへの赴任をきっかけに調べ始めます。ヤシ酒は熱帯地方ではポピュラーで、ヤシの花序に傷を付けて採取した樹液が自然発酵して酒になるという事をヤシ酒の全貌を緻密な現地取材で紹介しながら、科学的分析を含めて農学者の見地から説明しようと試みます。
木に登り、花序の先に何度も傷をつけることにより採取した樹液が自然と酒になるのですが、なぜ樹液が止まらずに採取できるのかということはわからない。人間でいえば止血が出来ないのと同じで、死んでしまいそうなものだけど枯れない…
ヤシ酒は、スリランカはもちろん、インドネシアやバリ島、オーストラリアやアフリカにも存在する古来からの飲み物。自然に発酵するため、日にちが経てば発酵が進みすぎて飲めなくなるし、加熱殺菌したものや蒸留したものもありますが味が落ちるため、現地でなければ美味しいものが飲めません。また、採取を人手で行わざるを得ないことから大量に採ることが出来ないため広がらない・広げられないもの。
そのままであればアルコール度数は3~4%程度で酒とは言ってもビールより少し低いので、飲みすぎると言っても限度があり、自然の酵母を飲むのでひょっとすると健康に良いかも。
製造に人の手が加わらないもので品種改良とも無縁の植物ですから、マルコ・ポーロが味わったものと同じ味が今でも飲める…そういったものは世界にそうはないでしょう。
ちょっとロマンを感じるお酒ですね。
ちなみに、著者はアフリカやオーストラリアには行っていないとのことですが、アフリカ文学の傑作と言われるものに、そのものずばり「やし酒飲み」(エイモス・チェツオーラ著)という作品があますが、冒頭に書かれたヤシ酒を採る方法など、この本に書かれたものと同じです。
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