「話してくれたら運賃タダ」のタクシーという奇抜なアイディアで都市と地方を行き来し、出会った人によっては追加取材でアメリカやイギリス、フランスまで追跡取材をした中国という国を見つめたルポルタージュです。(日本じゃ認可下りないな…)
米公共ラジオ局NPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)の特派員として上海に赴任した著者は、国家による情報統制や相互監視が行われる中で市井の人びとの生の声を聞き出すべく、話を聞かせてくれたら無料のタクシーを走らせるというアイデアを思いつきます。どういう素性の人が乗ってくるかわからないタクシー。取材対象となる乗客のバックグラウンドは実に多様です。
赴任期間は2011年から2016年までということで、まだ香港の自治は限定的に守られており、新疆自治区の問題も現在のように大きな問題にされていない時期。監視社会と情報統制がさらに強まったと報道される現在の中国では不可能な事なのだろうなと思います。
乗車時に語られたストーリだけでなく、気になった乗客のその後を丹念に追跡調査し、一人ひとりがどのような人生を歩んできてどう変わったのか。中国共産党の強大な政治体制や目ざましい経済成長が個人の生き方にどう影響しているのか。通常の報道では知ることのできないディテールが具体的に描かれていて、何を基準に、何を大切にしているのかという事について中国の人と一括りにしても、それぞれ考え方は違うのだという当たり前の事(登場人物はみんなバイタリティにあふれていますが)を感じられました。
アメリカにあこがれ留学してMBAを取り、中国へ帰国することは他に選択肢が無くなった時と考えていた学生がアメリカのトランプ政権の誕生やリスクを取らない決定に時間がかかる仕組みに満足できずに帰国、それでいて中国本土には戻らず深圳に住み香港に勤める選択をしたり、地下カトリック教会のカトリック教徒が学校の詰め込み教育や容認される子供への暴力や一人っ子政策などから逃れるためにアメリカへ移住したり…
彼女/彼らは今、香港自治の実質的消滅と情報統制と思想教育の強化、アメリカでのアジア人差別の高まりの中で何を思い、どうしているのでしょうか。
人それぞれに優先するものが違い、自分たちが生きている世界はいつまでも同じではないということを感じます。
そして、それぞれの考え方や価値観が違う国と日本はうまく付き合っていくことが出来るのか。好むと好まざるとに関わらず付き合っていかなければならないわけですし、人の考え方を知ることは、相手を理解する材料の一つになるでしょう。
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