北村薫さんと言えば短編ミステリーの名手。
しかし、この作品は女性編集者が山を登るお話です。登山の技術ではなく、日常の生活と、そこから離れた山でのエピソードをおなじみの文体で綴ります。
本格ミステリーと小説の醍醐味の幸せな結婚と評されたデビュー作「空飛ぶ馬」からシリーズものとなっていた”円紫さんと私”シリーズの”私”も大学を卒業して編集者になっています。小説家としては身近な観察対象…だったりすると実際の担当者の方は大変だろうなあ。
主人公は40歳で、物語の中で副編集長から編集長になり、故郷にいる親友を亡くし、山で気の合う人と出会い、取材先で偶然出会った昔一緒に暮らしていた男性とのわだかまりが消える。山に登ることで得た考え方や気持ちが、そういう日常を過ごしていく糧になる。人は生活する中で何かを感じて進んでいくものですが、ここでは”登山”という行為が日常生活の感度を上げていくツール。
読んでいて山に登りたくなるとあとがきでも書かれていますが、北村さんは登山をせずに取材で書かれた物語だとか。
取材したものを描写する力や構成力には改めて脱帽です。
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