2021年4月1日木曜日

【侵略する豚】青沼陽一郎 著 小学館 2017年10月2日 初版第1刷発行

 冒頭から桜田門外の変の話で歴史小説かという感じですが、アメリカ・中国の食糧戦略とそれに対して無策な日本の現状のお話。

桜田門外の変で殺害された井伊直弼は開国派、殺害した脱藩した水戸藩士と薩摩藩士。

水戸藩の徳川斉昭は公に牛肉を生産していた彦根藩から献上される牛肉を好んでいたが井伊直弼は仏教の教えから食肉を禁じたので献上を断った。その子である徳川慶喜は豚一殿(豚肉の好きな一ツ橋の殿様)と呼ばれ、豚を江戸藩邸で飼っていた薩摩藩に再三無心しており、家老であった小松帯刀に辟易されていたという話に、井伊憎し、徳川碌なもんじゃないという印象がなかったとは言えないのではないかと。


タイトルの「侵略する豚」の最初は伊勢湾台風で大きな被害を被った山梨県にアメリカのアイオワ州から畜産振興のためにということで空輸された35匹の豚(予定では40匹だったが輸送機のキャパシティから36匹になり1匹は輸送途中で死んだ)

この豚は支援であると同時に当時飼料の余剰に悩んでいたアイオワ州の生産者組合の消費地拡大の思惑もあったという。

現在、日本の畜産に使用される配合飼料はアメリカから多く輸入されており、その35頭から増えた豚は日本全国へ広がって食習慣を変え豚の消費量が増えた日本へ豚を輸出する。

世界第1位の豚肉消費国である中国は、人口の割に耕作に適した土地が少なく、さらに経済成長のためにそういった土地も工業用地へ。効率よく収穫するために農薬を使って収穫できるだけ収穫してきたから土地がやせてまともな作物の栽培には向かない土地が増え、飼料を含め農産物の輸入が増え、値上がりする。

また、日本国内事業者が安全性に問題があるからと使用を求めずEUや中国で使用が禁止されているホルモン剤をアメリカらカナダでは使っているが、その輸入は禁止されていないということも相まって安くて効率のいい、しかも自動車貿易を盾にされて解放せざるを得ない日本の畜産は立ち行かなくなっている…と。

アメリカも中国も長期的な視点で戦略的に考えているけれど、日本では田中角栄時代に大豆のアメリカ一国依存対策でブラジルとの共同農地開発プロジェクトくらい…とは言っても、その遺産は中国の対米依存対策に使われているという。

田中角栄が考えたというよりは危機に際して官僚と政治家が動いたということなのだろうけど、政治主導と声高に言う政治家にはそんな能力はなさそうだし、そんな状況で今の官僚にはそんな余裕はなさそう。

田中角栄が偉かったのは、政治と行政をきちんと把握して、出来ること・出来ないことをきちんと分けてやるべきことをやったところなのだろうな。

自由貿易の一番効率のいいところで作って世界中にいきわたらせればいいんじゃという考えは貧富の差が固定しやすいし、輸送トラブルがあったら立ち行かないというデメリットがある。

工業製品の輸出のためには農家は犠牲になっても仕方ないという考え方は、石油を止められて開戦に至った太平洋戦争の反省がされていないんだろうなと思う。

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