2019年11月10日日曜日

【あかんべえ】宮部みゆき 2002年3月29日 PHP研究所 第1刷第1版発行

舞台は江戸時代。両親が独立して新しい料理屋を構えた屋敷には成仏していないお化けがいたというお話。
まずはヒロインおりんの両親の雇い主で育ての親でもある賄い屋の主人である七兵衛の話、そして父親の太一郎の話。
二人ともみなしごで、他人に育てられて一人前になったことが簡潔に語られる。
賄い屋で成功した七兵衛の夢である料理屋を託された太一郎。
場所選びで難渋しながらようやく開業にこぎつけた場所が実はいわくつきの場所で、成仏していない玄之介、おみつ、おどろ髪、笑い坊、そしておりんにあかんべえをするお梅が現れる場所。
そして、おりんは重病で三途の川の河原で不思議な老人と出会う。

よく「人が描けている・描けていない」という話を聞くけれど、ストーリーテラーの作品はストーリーを語ることで、登場人物の深い内面は読者に任せていると思っている。
登場人物の来歴、キャラクターを描いてストーリーに投げ込む。
そうすることで、登場人物が勝手に動いてくれるという作家もいるけれど、この作品はどうだろう。

この物語は家族とは何によるのかを問うている。
高田屋の七兵衛、おさき夫婦。おさきは出戻りで子供がいるが、その子供はすでに奉公に出ていてこの物語に出てくることはない。
そのおさきの過去は語られることがないが、物語の終盤お化けが見える事で何かあったのだろうと示唆する。
みなしごの苦労人で一生懸命働いて店を切り盛りすることで結婚する暇のなかった七兵衛や、七兵衛の下、一生懸命修行してきた太一郎にはお化けは見えない。
家族は血のつながりとは関係ない。相手を思う気持ちが大切であるという多くの作家がとり上げているテーマをお化けの存在を使って描いている。
七之助夫婦と太一郎夫婦とおりん。
みなしごヒネ勝と差配の孫兵衛。
一方。おどろ髪は兄に嫉妬して身を破滅させ、白子屋の主人は身ごもった女中を捨て、その子に恨みを持たせることになる。
興願寺の住職とお梅の関係は、おりんとは対極のもので、それだからお梅はおりんにあかんべえをして口を利かない。「同じ境遇なのにどうしてあなたは…」と。

興願寺の住職の抱いた疑問はその道を究めようとすれば抱いて当然なものだが、純粋に信じていたからこその所業ともいえるが、信じていたものに裏切られた気持ちが凄惨な行為に走らせたのだろう。
「御仏はどこにおわす。」この主題はまた多くの古典に見られるものだけれど、それはこの物語の深層にある話だ。

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