2019年4月10日水曜日

春の本


先月、急な飲み会でサボってしまった読書会。
今月のお題は「春の本」という事で、みんな挙げそうな本は避けて映像化されたもので春に縁があるものを選んでみた。

【重力ピエロ】
 春と言えば、日本人なら「春はあけぼの。ようよう白くなり行くやまぎわ~」の清少納言の枕草子を思い浮かべる人も多いんじゃないだろうか。
 「春が二階から落ちて来た。」で始まるのは伊坂幸太郎の重力ピエロ。
 枕草子の春は、そのまま季節の春だけど、重力ピエロの春は語り手の弟の名前。
 そういう意味で、春の本と言って重力ピエロを出すのは趣旨とは違うか。
 しかも、この物語は(と言うか伊坂幸太郎の物語は)一般的な社会通念とは少しずれていて…と言っても本音の部分で共感する人も多いだろうけど、文章もかなり砕けているという点も含めてエンタテインメントとしては評価されるけど、いわゆる読書家の受けはどうなんだろと思う。
 例え少年法で守られて全く反省のない連続レイプ犯であっても、それを殺す事、殺した者が自首しようとするのを引き留める事が許されるかどうか。
 映画化されたけれど、正直観る気はしなかった。他人の目で消化された物語を観るのは興味深い事で、むしろ観るべきだったのかもしれないけど。
 現実に女子高生コンクリート詰め殺人の主犯の一人が、成人した後で人を刺したというニュースがあったりして、犯罪者というのは年齢に関係なく正しく罰しないと不幸の連鎖を起こすのだなと感じた。
 ますます春というお題にふさわしくない…
著者:伊坂幸太郎
新潮社 2003年4月22

【小説・秒速5センチメートル】
 「秒速5センチメートル」というアニメ映画があって、それを監督の新海誠さん自らノベライズした「小説・秒速5センチメートル」。
 秒速5センチメートルと言うのは桜の花が落下する速度だそう。雨は秒速5メートル、雲は秒速1センチ…
 転校生だった小学校6年生の男の子と、小学校6年生で転校してきた女の子が、そういう本やテレビで得た知識を将来に必要な事だと考え、交換する。
 桜の花が散る様子を見て、雪のようだという女の子の言葉。彼女が彼に教えたのが秒速5センチメートル。
 物語は中学進学を前に転校して離れ離れになった二人の、男の子の物語を主に語られ、最後は結婚を控えた女の子と、会社を辞めて新しい生活を始めた男の子が新宿の踏切ですれ違っていくシーンで終わる。
 すれ違って、二人が振り返ったところで電車が通過して、二人はそのまま歩いていく。
 このお互い気付かずすれ違うシチュエーションに似たものが後の大ヒット作品「君の名は。」でも使われていて、そちらの二人はそこから先の物語も描かれるのだけれど。
 誰かが誰かの支えになる。そうは言っても恋愛は必ずかなうものではないし、幸福な結末になるとは限らない。そして、何が一番幸福かなんてわからない。
 初恋の行方の物語だ。
著者:新海 誠 
メディアファクトリー 20071129日初版発行

【チャンピオンライダー】
今から30年以上前に書かれたコンチネンタル・サーカス…オートバイの世界グランプリを舞台にした物語「ウインディー」の続編。
「ウインディー」の方は1984年に原田真人監督でレーサーと一人娘の物語として映画になっている。
春というと、この作品の冒頭で主人公の杉本敬が、その年のグランプリを走るマシンを手に入れて、相棒のサムに軽口をたたかれ、励まされているシーンをぼんやり思いだしたりする。
まだ南アフリカでは当然のようにアパルトヘイトがあって、グランプリの初戦はその南アGP。黒人であるサムは行けないのにだ。
当時でもトップカテゴリーでプライベート参戦のライダーがワークス(メーカーが協力している)チームの前を走るなんてそうはない話だったけれど、当時の125ccクラスで実際にチームを持って参戦した経験のある泉優二さんの描写はセンチメンタルではあるけど嘘を感じさせない。
シーズンが終わり、次のシーズンまでバイクショップで働いて翌年のレース費用を貯め、翌シーズンに備えて、マシンやスポンサーの手配などいろいろ準備する。
春は始まりの季節だ。満を持して、しかしいろいろな不安がありながら、前へ進む季節。
そしてこの物語では、いろいろな愛情や別れが描かれている。
この作品だけ読んでも違和感はないから読んでみたらと勧めようにも今や絶版で、おそらく図書館にも置いてないのが残念。
著者:泉 優二
角川文庫 1987年2月10日初版発行

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