2018年5月28日月曜日

【さよなら妖精】米澤穂信 2004年2月25日初版 東京創元社 発行

 米澤穂信さんの作品には、日常のちょっとした出来事の謎を解いていく「古典部シリーズ」と、犯罪の謎解きをする「満願」を代表とする本格ミステリーの系統が代表的。
 「古典部」シリーズは元々角川スニーカー文庫の描きおろしで中高生向けに書かれた作品で、この【さよなら妖精】は「古典部シリーズ」ではないが、その系統に連なるもの。主人公が高校生で、語り口も主人公の高校生の一人称。
 ここで登場する女生徒の一人は、11年後に書かれた本格ミステリー【王とサーカス】のヒロインと同姓同名。新聞記者を辞めてフリーライターとなった彼女はチベット取材に出かけ、そのタイミングで王室の殺人事件(実際に起きた事件)に遭遇する。
 【王とサーカス】の本の扉に“マリア・ヨヴァノビッチの思い出に”とある。それは【さよなら妖精】のユーゴスラビアから来て、帰っていったタイトルの主。

 この物語の謎自体はやり過ごしてしまえば気にもならないようなものが多いと思うけど、ユーゴスラビアから来た少女の目を通した疑問という事で、それを取り上げるのに不自然さを取り払っている。語りの言葉が上滑りな部分はあるけれど、それは高校生の主人公のリアリティの一つの表現かもしれない。
 当たり前のように自分が生きている日本と言う国と、ユーゴスラビアから来た同じ年頃のマーヤという女の子の生き方から見るユーゴスラビアと言う国。彼女は壊れ行くユーゴスラビアへ帰ってしまうのだけれど、主人公がどう感じるのかという点も想像してほしい。
 人の心は自分でもわからない。時間が経つにつれ自分を納得させていくものだから、この時点で彼がどう感じているのかを考えるのも一つの答えのないミステリーだろう。

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