脳に障碍を持った少女と、彼女を助けたために指を失ってピアニストの道を閉ざされた青年が山奥の診療所で経験する不思議な話。
第1回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作ですが、初めて読んだときには中身はいわゆるミステリーとは感じられず、賞の将来の方向性を決めかねない第1回の受賞作にこの作品を選ぶ勇気に驚きました。しかし、それが逆に間口の広さをアピールできてプラスに働いたかもしれない。日本ファンタジーノベル大賞に応募していれば、そっちで大賞取っても不思議じゃなかった種類の作品だよなと感じました。
映画化もされましたが、ヒットはしなかったと記憶しています。
この作品には悪人が語られません。客観的に見て酷いと思われる人もひどい人という描かれ方はしません。恵まれた人は出てきませんが、不幸を不幸と感じさせず今を生きている人ばかり。
病気や事故による障碍を背負っていてもそれを受け入れて生きている家族的コミュニティ。それを我知らず作り上げた女性の物語が元ピアニストと脳に障碍を持った少女の物語と交わって起きる奇跡を描いた物語ですが、心と体の関係をテーマにした医学ミステリーとして読めば、後にこの賞から生まれた大ヒット作品「チーム・バチスタの栄光」や、今年の大賞受賞作「がん消滅の罠」に先行する、しかもより大きなテーマを持つ作品という見方もできます。
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