2016年4月3日日曜日

ロマンポルノの事



かつて、ロマンポルノという映画のジャンルがありました。成人指定映画というのは、それ以前にも存在していたけれど大手映画会社が製作するものではなく、小さな映画館で細々と上映されるものでした。
ロマンポルノは当時大手の映画会社で経営難から経営者が経営を投げ出す形になった日活が、労働組合主導で会社を存続させて行こうとする中で窮余の一策として生まれました。
 撮影所を持ち、全国に映画館を持つ映画会社が成人指定映画を『日活ロマンポルノ』というブランドで製作・配給・興行する。そのインパクトは大きかったはずです。しかしと言うか、当然と言うか、そのために日活を離れて行った人も多いと聞きます。その後も長い間絶縁状態であった人もいるとか。
しかし、そこで働く人の雇用と職能を守る為には、当るかどうかわからない上に資金も必要な一般映画製作は現実的ではなく、会社の存続のために苦渋の選択をしたのだと思います。
 主要な不動産は次々と売却、撮影所の土地まで売却した経営者に対し、労働組合は撮影所を労働運動を通じて買い戻しに成功。少なくとも映画製作の拠点は確保した。そんな過程の中での話でもあります。
 持てるリソースを活かして明確な顧客ターゲットを持ち、収益を上げて職場を維持する。結果として、そこで守られた撮影所・職能から映画ファンから評価される映画が生まれ、次世代を担うクリエーターを多く育てる事になりました。
 後に、家庭用ビデオの普及から生まれたビデオレンタルによりロマンポルノのニーズは減り、参入したオリジナルビデオ製作でも“生撮り”という言葉を生み出しつつ業界の健全化を目指して日本ビデオ倫理協会の設立にも尽力した会社でした。しかしセックス描写に特化し、製作費のかからないAVに押されて収益が上がらなくなる、海外販売で『ポルノはマフィアの仕事』と言われ事業展開の支障となると判断した事もあり、その歴史を閉ることになったといいます。
 日活はその後一般映画製作に回帰し、映画以外の柱となる新規事業開発を目指しますが上手く行かず、会社更生法の適用を経て現在に至っています。
 先日、日活からそのロマンポルノが復活するというリリースがありました。
 生まれた背景を考え、今の状況を見れば事業として成立する要素はありません。単純にイベント的なトリビュート企画なんでしょう。
 仮に映画製作の柱の一つとして考えるとすると、撮影所システムやブロックブッキングが崩壊した中で持ちこたえる意義や力があるのか興味深いところです。
しかし、最後の作品から28年も経っていまだに価値を失わないんだな。そんな事を考えて、ロマンポルノを生み出した人たちの偉大さを思います。

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