2016年2月23日火曜日

【異類婚姻譚】本谷有希子 著 文芸春秋2016年3月特別号 第154回芥川賞受賞作品

怖いお話である。

「夫婦の容姿が似てくる」とは時折聞く話で、これは夫婦に限らずペットなんかでも言われる。
この物語ではサンちゃんとその夫、その夫婦より長い期間付き合っているサンちゃんの弟のセンタとハコネちゃん、サンちゃんのマンションの別棟に住み、猫のサンショを飼っている老婦人のキタヱさんとアライ主人の夫婦の3組のカップルが出てくるが、夫婦が似てくるのはサンちゃん夫婦のみ。
じつはキタヱさん夫婦の知り合いで似てきた妻が夫に似て来た夫婦がいたのだけれど、アライ主人が二人の間に物を置くと良いと石をプレゼントしたら別人に戻り、その代わりに石が夫に似るようになったという。

サンちゃんは専業主婦にあこがれて、家では怠惰な夫からは離れられない。つまりは夫に依存して暮らしている。
サンちゃんの語りでは、家で面倒な事を考えたくないという夫は、会社ではそれなりに面倒な事をしていたのだろうが、物語の最後では妻のサンちゃんに似てきているのだ。
キタヱさんのサンショだって、この夫婦にとっての石であったとすれば、再び外国に越して行ったという話も本当はどうなのか。
距離感を持って付き合っているセンタとハコネちゃんには、まだそういう心配は無さそうだけれど。

夫の怠惰なのが家だけでなく会社の勤務態度にも現れ、早退や病欠という言い訳のサボりをするようになり、主婦のような生活をするようになる。
ヘビがお互いのしっぽを食い合い、玉になるという話が出てくるがお互いに似たのだという事だろう。サンちゃんは容姿が、夫は生活スタイルが。
怠けていて油断すると顔が崩れる。それは、言ってしまえばサンちゃんの倫理観からの心の目もあるのかもしれない。
途中、夫の別れた妻からのメールが語られ、その後の展開が描かれない。少しおかしくなったという美しい彼女はどうなったのか
物語の最後、夫が白く美しい山芍薬となり、それを山に還しに行き、紫色の竜胆の隣に植えるが、それは実は夫と前妻のメタファーなのではないのかな。二人は山の中で並んで埋められているという。

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