「苦役列車」の西村賢太氏の尽力によって復刊された著作。
個人的には、私小説とういう分野には個人の思い入れや、周辺の人々の共通理解という事があるので、敬遠している。
だって、私小説というのは、その世界を共有しにくい=だってそうなんだもんって手段が最終的に残されているから。でも、敢えてこの著作に触れる気になったのは、ここで主人公が過ごしている世界が、そのうち再来するんじゃないかっていう不安感から。
大正年間と言えば、明治維新から半世紀過ぎているとはいえ、民主主義や社会保障なんて未整備だった頃。
なのに、主人公の独白や描かれている周りの状況を読めば、まさにこれから来る世界ではないかと思える。
病気になっても、篤志家に、自分の人間としての誇りを捨ててお願いしなければいけない貧しい人々の世界。
その誇りを捨てられない二人。
大正時代、政府ではなく、お金持ちに事情を話して援助してもらうって事があったのかな。
まあ、政府が当てにできなければそうなるし、増税に反対している人が多いって事は、そういう流れでもあるんだろうねと、思わなくはない。
小説自体は、田舎から出てきた苦学生の物語。
そういう世の中にならないよう(著者は、芝公園で凍死しているという)僕らは考えなきゃならないんだろうな。
多分、このまま強欲資本主義の世界じゃ、この本の世界が再びやって来るのは間違いないだろうし。
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