2011年5月4日水曜日

【ホームレス歌人のいた冬】三山 喬 著 2011年3月 東海教育研究所

2008年12月8日、リーマン・ショックによる企業の業績悪化と派遣村騒動で揺れたあの冬。朝日新聞の「歌壇」欄に投稿掲載された一首の短歌。その作者の住所は投稿規程には沿わない“ホームレス”となっていた。
それ以降、読者や編集者の注目を集めながら、身元を明かさず、約9カ月で消息を絶った歌人「公田耕一」。

この本は、横浜 寿町で公田耕一の正体と消息を追う事で、著者が自らの生き方をも再認識する事になるドキュメント。
横浜の寿町と言えば、東京の山谷、大阪の釜ヶ崎と同様ドヤの街として認識している。っていうか、近所だし。
JR根岸線 石川町駅。横浜から山手方面に向かって走る線路の左に行けば元町や中華街といった繁華街。しかし、右に少し行けば寿町だ。
花村萬月の出世作【ブルース】にも出てくるこの街には、正直あんまり近づきたくない。
バブル期以降、この街の境界あたりに小奇麗ななマンションが建ち、横浜を知らない人が、横浜スタジアムや元町、中華街、山下公園といった観光スポットが近く、割安という事で住んではみたものの・・・って話も聞く。

そこに暮らす人たちは、ドヤと言われる簡易宿泊所で寝泊まりしている人や、段ボールハウスやブルー・シートを寝床にしている人たち。
そこに取材に行くというのは、それなりに覚悟がいる事かなと思う。
最近、すごく見なりの汚い人を見ないなと思っていたら、この本を読むと中区役所、施設を作って対応しているようだ。
そういえば以前、曙橋のアポロに行く際に、タクシーで堀川沿いを通った時に立派なワンルームマンション風の建物があって、「こんな所に建てちゃって大変ですよね。」ってタクシーの運転手さんに言ったら、そこはエアコン完備の簡易宿泊所で、家賃は生活保護費から天引きされるので、「一回入ったら出れないんだよね。」って答えが返ってきた。
そうか…、見た目うちより立派だ。

この本を読むと、寿町は日雇労働者もそれほど必要とさなれくなり、元日雇い労働者や生活する糧・つもりのない人、高齢者の生活保護地域となっているらしい。
道理で、昔のギラギラ感が無くなっているわけだ。
でも、そういう人たちは、それぞれの事情があるのだろうというし、おそらくは当人でなければその事情は当人と同じように共有される事はなく、関心を持ってほしくないだろうなって所は変わらないだろう。
結局「公田耕一」さんは見つからない。(著者は、ホームレスではなくなり、生活保護をもらって簡易宿泊所ぐらしを始め、住所が出来てしまったので遠慮しているのではと推測している。)

「公田耕一」というホームレス歌人を知る人それぞれに「公田耕一」がいるって結びは、仕方ないよね。
寿町に限らず、周りと接触を持ちづらい今の世の中で、隠れていたい人を探すって大変だと思う。

著者は、「公田耕一」さんが短歌を投稿したのは、働けない中で、どこにいようと短歌に限らず自己表現手段を持つ事は、自らの尊厳を守るためには大切な事だからと推測している。
そう言われれば、そんな気がする。
中上健次の【枯木灘】に出てくる秋幸みたいに、土方仕事して自然と一体になるのが心地よく、自分を感じるなんてことは、望むべくもないのかな。この状況では。

この本の記述では、時間と場所が入り組んでいて、ちゃんと理解するには多分2度読みが必要だ。
劇的効果を狙っての事かと思うけど、構成には一考の余地があるって思う。

1 件のコメント:

  1. ちょっと話題になった菅直人首相の昔の盟友でホームレスになって人の話も出てくるけど、それはなるべくして…としか思えないんだよね。個人的には。

    返信削除