2022年10月10日月曜日

【図書館奇譚】著者:村上春樹 イラスト:カット・メンシック 2014年11月25日 新潮社

 いわゆるアートブックという形態で、村上春樹の短編にイラストをつける。

イラストが短編のイメージを膨らませるという効果があります。

羊男と言えば「羊をめぐる冒険」を思い出しますが、「羊男のクリスマス」という絵本がありました。

「羊男のクリスマス」の絵は佐々木マキさんで、ほんわかした感じの絵でしたが、カット・メンシックさんの描く羊男は、この物語にぴったりの、どこか卑屈な感じがある羊男。

エッジの効いたイラストは、著者の意図した世界観なのでしょう。

しかし、自分の受け取り方は少し違います。

村上春樹の世界は、現実とは少し違う世界。少し違う部分を何かの象徴と捉えて読むこともできますが、この物語をそのまま解釈するとすれば、悪夢と現実が地続きの物語だと言えるでしょう。

登場人物を単純化してしまえば、子供向けの絵本になるわけです。(一歩間違えると「くもだんなとかえる」(文:松谷みよ子、絵:田島征三)みたいに子供にトラウマを植え付けてしまいそうですが…)

“図書館の地下に部屋があって、迷路のような通路があり変な本を借りようとするとその迷路の先の部屋に連れて行かれて、小難しい老人に難癖をつけられ、本を暗記させられた後に脳みそを吸われる。逃げ出さないようにする番人が羊男で、主人公を助け出そうとする美少女は…”

この作品の初出は「トレフル」という百貨店の広報誌だそうで、それが「カンガルー日和」という短編集に収録され、「村上春樹全作品集1979~1989」に再録された際に手直しされ、佐々木マキさんの絵で絵本化される際に子供向けにリライト(私は見たことがないので、どんな羊男になっているか知りません。)されて題名も「ふしぎな図書館」と変更。その後にドイツ語版が発行され、そのイラストが使われ、その日本語訳がこの本…と、実にややこしいことになっているそうです。

何度もリライトされるのは、作者の考え方の変遷を知るうえで興味深いと思います。並の作家さんならその機会はないわけですが


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