2021年10月3日日曜日

【さまよえる天使】柾吾郎 著 光文社 2003年10月25日 初版第1刷

 普通の人の300分の1のスピードでしか動けない。そのかわり、寿命も300倍ある。

そんな<適正>を持った人たちが、世界のあちこちで、静かに生き続けている。きっと、今も-”

体は300分の1のスピードでしか動かせないけれど、思考のスピードは通常でテレバシーを使えるというのは設定に無理があるし、そんな存在をテーマにその人あるいはそれに関わる人の魅力的な物語を紡ぐのは難しいな…読み終えてそう感じました。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症し、特殊な車いすで生活していたホーキング博士を思い起こしますが、それとは違い、生きること自体は自立している。外的要因に対応できないことから何らかの形でサポートする人がいるか、外的要因の発生が少ない場所でひっそりと生きるかしかない。

樹木のような生き方ですが、植物にも寿命はありますし、気候変動もありますから2万年を超えて生きるなんて仮定することもできない気がします。

しかも、そう生まれついたのであればともかく適性を得てそうなってしまうなんて恐ろしいし、栄養を摂るために植物や鉱物と一体化するというのは暗黒神話っぽい、

詩的と言えば詩的な設定で、隠喩と捉えて楽しむのが正解だと思います。

例えば、目の前でいろんなものが変わっていくけれど、それについていくことが出来ない自分。変わっていくものがいろんな利便性をもたらして、それの良しあしは別として自分の生活が豊かになってゆく。もたらされるものはどんどん古くなって消えていく。そして、それによって、時には自分もあっさりと失われる…

1篇その存在が出てこない作品がありました。

それは、あらゆる食物にアレルギーを持ち、特別に合成された食物しか摂れずあらゆる皮膚も露出できない女性が、依頼を受けて中国でアレルギーの出ない食品を捜す物語。

ついにそれを見つけますが、それはコメの原産地で原初から変わらない方法で栽培されたものであったという、現代技術で生かされてきた人が原初のものに救われる。

共通するテーマとして、今の文明を無批判に受け入れる事への疑問があるのかもしれません。

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