2021年4月13日火曜日

【サッカーのある風景 場と開発、人と移動の社会学】 大沼義彦/甲斐健人 編著 晃洋書房 2019年12月10日初版第1刷発行

 いわゆる「新潟の奇跡」と呼ばれるアルビレックス新潟の事は、少し前のJリーグファンを中心に知られていることだと思います。

少し前というのは、奇跡といわれていた頃にJ1のビッグクラブと呼ばれるクラブのサポーターから「新潟はこれからが正念場だね。勝ち続けている今はいいけど、これからJ1に上がり勝てなくなった時、昇格して仮にJ2降格なんてことになった時に支え続けるサポーターがどれだけ残るか。」と言われた事が半分現実となっているからです。

しかしサッカー不毛の地と言われた新潟にサッカーがしっかりと根付き、競技レベルも上がりったのは事実。

かつてインターハイや選手権で一回戦敗退が多かった新潟の高校は、今やある程度勝ち進むことが当然のように見られます。高校サッカー強豪校の一つとして数えられる帝京長岡高校は別の物語になりますが、アルビレックス新潟の存在はサッカーに対する社会の目を変えたと言ってよいでしょう。

本書はそのような事が可能な状況がいかにして作られたのかという事、シンガポールでの展開、アルビレックスとは別にシンガポールの日本人選手について様々な聞き取りや資料を基に論じています。

アルビレックス新潟設立までの経緯については、知る人ぞ知る話ですし、それ以前の県立スポーツ公園整備について、鳥屋野潟周辺の整備がいわゆる田中金脈問題に影響を受けてなかなか進まなかったことは知識として知ってはいましたが、改めて深く知ることが出来ました。

個人的に一番興味深かったのはシンガポールリーグの選手への聞き取りと、同じくシンガポールでのGFAのお話。

正直、アルビレックス新潟シンガポールの待遇については驚き、同時にシンガポールの選手の話ではセカンドキャリアについてもう少しどうにかならないものかと考えてしまうのですが、そこにサッカーがあり今それで生活が出来ているという充実感は、彼らにとって代えがたいものなのだと想像します。

シンガポールでの日本人コミュニティ内でのサッカースクールであるGFAについて、その存在は知らなかったのですが、シンガポールの日本人コミュニティという一時滞在型の社会という特殊な環境で機能する事業で、強化を目的としないサッカースクールはとても興味深いもの。

シンガポールにおける日本の出島と表現されていましたが、「地元に溶け込め。グローバルな人材を作ろう。」と言われがちな中で、無理をしないで疎外感を無くすための存在なのだろうし、「目の前の他者を大切にすればパスは回ってくる。」という考え方は共感できます。

この事例は他でも同じようにできるかというものではないという事は読めば理解できると思います。それぞれの地域にはそれぞれの事情があり、タイミングがあり、人がいるわけで、その一つのケーススタディとして読むもの。

いくつかの地域の事例を比較してみると面白いのだろうなと感じました。

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