2018年5月7日月曜日

【ヒストリア】池上永一著 2017年8月25日初版 KADOKAWA 発行

 言葉を知っている事と理解していることは違うのだ。
 今更ながら強烈に思ったのは、沖縄戦の描写と南米移民、基地問題。要は沖縄についての事だ。
・NHKの「西郷どん」がどんな描写をしているのか知らないけど、島津藩は簒奪者で、琉球王朝を亡ぼし、日本は沖縄を併合したのに間違いない
・沖縄戦では日本兵が住民を盾にして戦い、多くの住民が自決を強いられたり米軍の犠牲になったりした
・戦後、多くの沖縄人が南米へ移民し、大変な苦労をした
・今なお沖縄は米軍基地の占める面積が広く、実弾演習も行われている

 そんなもの言われなくても知ってるさって事。そう、言葉は知っているのだ。
 しかし、自分とは無関係で、終わった事、仕方ない事。米軍基地が多いのは日米安保条約が締結されていて、沖縄が地理的に重要な位置にあるからだし、仮に現状、可能性は限りなくゼロに近いけど日米安保条約が改定されて米軍が撤退するとしても、代わりに自衛隊が駐屯することになるだろうし。
 でも、それが言葉という抽象的なものではなく、具体的な物語で語られたら心情は大きく変わるはずだ。

 もちろんこの物語はフィクションだ。
 しかし、米軍の砲撃を受ける描写、日本兵の描写、南米での生活の描写、それぞれの物語は言葉が独立していた時とはインパクトが桁違いだ。そして、それは実態よりもマイルドなのかもしれない。
 そう思う時、言葉を知っている事と理解していることは違うのだと、実際に強く感じる。

 物語は沖縄戦に始まる。
 主人公は普通の少女だった煉。
 その煉の、戦争を生き抜き、米軍から逃げるために南米ボリビアへ移民し、落としたまぶいと一緒になるために沖縄へ戻り…というお話。
 テーマは重いがストーリーは活劇調で、語り口はリズミカルな琉球言葉も混じった池上流のものだから一気に読んで苦労はない。

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