2016年3月2日水曜日

【玻璃の天】北村薫 著 文春文庫2009年9月10日第1刷 2009年11月15日第3刷



北村薫と言えば、“六の宮の姫君”を代表作とする円紫さんと私シリーズ5作品や“ニッポン硬貨の謎”、“スキップ”を思い浮かべるかもしれない。
“玻璃の天”は、それらとはまた少し系統が違う“ベッキーさん”シリーズ3作品の2作目。
時代が昭和初期に設定されていて、主人公の花村英子は元士族で財閥系の会社の社長の娘で、華族の子弟も通う女学校のミドルティーンの学生。
ベッキーさんは、英子の運転手兼ボディーガードで、名前を別宮みつ子という。
この作品は、ベッキーさんがどういう人だったのか明らかになるという紹介をされる事が多いと思うけど、それだけ魅力的なキャラクター。
表題作の“玻璃の天”ではベッキーさんの過去が、この時代が深く影を落としている事が語られる。

1作“街の灯”は5.15事件のあった昭和7年に始まり、そして第3作“鷺と雪”は昭和11年の2.26事件の日に終わる。そういう意味では繋ぎな感じがする第2作めではあるけど、一連の物語として深い意味を与えている。
この本は“幻の橋”“想夫恋”“玻璃の天”の3つのエピソード。
“幻の橋”の中で主人公はパーティーで出会った、好ましく感じた軍人の若月の「国家が一つの行進であるとして、皆が自由な方向に歩き始めたら、それはもう行進ではない。」という言葉に返した
「国家という行進なら、その向かう先は、孔子のいう仁や、あるいは、殺すなかれといった、基本的な徳であるように思えます。それを越えた主義主張を、否応無しに強制された時、行進は、歪まざるを得ないのではないでしょうか。外に向かっては行為が、内に向かっては心が、です。わたしのいう自由とは、基本的な徳に向かう行進の中で、右を向き、左を向く自由です。鳥の声に耳を傾け、空の雲を見る自由です。そこから、機械の尊さではない、人の尊さが生まれるのではないでしょうか。」という文章が心に残る。
この後、時代の歯車は大きく回り、国の運命を巻き込んでいく事になる時代に生きた人のお話。

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