2011年4月10日日曜日

【金春屋ゴメス】西條奈加 著 第17回ファンタジーノベル大賞 大賞 新潮社 2005年11月

この物語の時は人が月にも移住できるようになった未来。場所は、竹芝埠頭から千石船で数時間の所にある日本国から独立を宣言した江戸国。

鎖国をし、将軍を頂点とした専制君主制を敷く入国を厳しく制限したこの国は、電気、ガス、近代水道、携帯電話、腕時計、化学製品、抗生物質など、江戸期に一般化していなかったものは一切の持ち込みを禁止ひている。

主人公普通の大学2年生辰次郎は、余命半年と宣告された父の頼みで応募した倍率300倍と言われる抽選に当選して、江戸の国へ。
身請け先は、容貌魁偉、冷酷無比、極悪非道、厚顔無恥、大盗賊も思わずビビり、一般の町人も恐れおののく「金春屋ゴメス」こと長崎奉行 馬込播磨守の配下。
当然外灯のない夜は、真っ暗闇で、入国早々、捕りものの現場へ行くにも夜目が効かず、先輩に手ぬぐいで引っ張ってもらう羽目に。
この所の節電と計画停電騒ぎ(計画停電は、中止らしいけど)で、すっかり夜が暗くなった。
いや、夜なんだから暗いのが当たり前なんだけど、マリンタワーのライトアップとか、見慣れている目には、この状態の方が不自然に感じるという不自然な自分に気が付く。
そんな、今自分たちが経験している自粛や節電による暗さとはレベルの違う暗さ。
昔、自分が紀伊半島へツーリングへ行ったとき、夜間走行中、人里離れた山道でエンジンを止めヘッドライトを消した時。あの自分の手も見えない暗闇が街のあちこちに潜んでいるんだろう。
辰次郎は、意外とすんなり馴染む。
夜明けとともに起き、日暮れとともに休む。実は、それはそれで徹底されれば、生きて行く上で不自由はないだろう。

辰次郎が入国できたのは、“鬼赤痢”の治療法を見つけるため、ゴメスの配下で辰次郎の父と幼馴染の地蔵の頭の願いで手をまわしたからだった。
本人の記憶に無いが、辰次郎は江戸生まれで、幼いころに謎の病を発症し、発症した子供は辰次郎を除き全員死亡。その治療のために両親と共に出国したが、日本の病院で診察された時には、特別な病気は発見されなかったという。
江戸に、前年その症状に似た病“鬼赤痢”が流行したため、ゴメスは、唯一生き残った辰次郎にその秘密を追わせる。
辰次郎が記憶を取り戻し、事件を解決する中で、文化と文明。人としての生き方を考えさせられる事になる。
SFとは違う未来物の江戸モノ。
今の生活を見つめなおす一つのきっかけとしても読んでおいて損はない独特のテイストを持った物語だ。文庫も出てるしね。

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